2015/07/06

海外就職での交渉術とは?

日本では、雇用する側が一方的に待遇を決めます。新入社員をほぼ同じ雇用条件にすることで、同じ会社内では相対評価し難くなっており、不満を抱き難いというメリットがあります。他社と比較した際に、給与が低いと思うことはあるかもしれませんが、多くの場合お互いの給与は打ち明けないし、福利厚生や勤務地なども絡んできて、給与だけの比較が難しくなっています。一方で、成果を上げても給与の変動が少ないというデメリットもあります。 

海外企業や大学では、雇用する側とされる側が、お互いの待遇に対して満足して働く環境を整えるために、内定をもらった後、交渉権が与えられます。プロ野球の契約みたいに。同じ会社の同期でも、給与が桁で違うこともありうるし、給与が同じでも福利厚生が全く異なる場合があります。勤務地や給与、福利厚生など、自分の重視したいものを訴えることで、雇用される側にとって、比較的不満の少ない環境で勤務できます。雇用する側は、なるべく高いモチベーションで優れたパフォーマンスを出してもらいたいため、交渉に快く応じます(交渉しないと逆に悪い印象を与える)。一方で、同じ部署で同じような仕事をしているのに給与が違うことに対して、相対的な不満を持ちやすいです(そのため、他者に給与をばらすと首になる場合もある。) 


【企業での交渉】 

一般的に、博士卒で1000万円前後で、年毎の大きな昇給はありません。大学の成績が良かったり、素晴らしい研究業績・賞を上げていると、1500万円以上も可能かもしれません。反対に、求められている能力が低いと、博士卒でも800万円以下を提示される可能性もあります。そこで、交渉を行います。 

他の社員が1000万円貰っているのに900万円を提示された場合、どうするか。「他の社員と同じくらい私も欲しい」では、通用しないえしょう。なにせ個人の能力を見ているのだから。他の社員よりも低く見積もられるには必ず理由があります。他の社員が交渉上手の可能性もあるし、求められている能力が普通よりやや優れている程度しか、見られていない可能性もあります。 

一つには、初年度を900万円でいいから、年率3%ずつ昇給して、10年間以上の契約を求める方法があります。来週からでも働けるとか、勤務地を選ばないとか、相手にとって好条件を提示する方法もあります。強気に出る際は、気を付けた方がいいです。ただ単に1000万円が欲しいだけでは、企業側との関係が悪化します。下手をすると、内定を乗り消されます。他の企業との内定を持っていたり、余程の成果が出ていない限り、無理は禁物です。交渉は、いくらまで給与が挙げれるかのチキンレースをするためではないです。あくまでも交渉の目的は、雇用される側とする側が、Win-Winの関係になることです。高くはないが許容範囲の給与がもらえそうであれば、福利厚生を充実させることに切り替えるのも一つです。 

交渉する前にちゃんと戦略を練っておいた方がいいです。企業の弱みを自分の能力で補えるのであれば、強気に出れるかも知れません。自分の長所と短所は事前に把握しておいた方が良いです。何度も言っているように、海外企業は個人をみているので交渉権があります。他の人と何が違うかを見つめ直しておいた方が良いです。交渉を焦らないこと!じっくりと数週間かけるつもりで進めればいいです(もちろん直に働いて欲しいという要求がある場合もあるので注意)。自分の分野の給与の相場なども、事前に大学の事務所やネットなどで調べておくと良いです。 

福利厚生については、自分にとって何が大事なのかを事前に把握しておく必要があります。特にアメリカでは、地域によって治安が全く違います。住む場所によって、小学校の先生の水準も変わります。休日も祝日が休みでない場合もあるし、妊娠しているのであれば、出産後すぐに働けるかどうかも気になるところです。上場していないベンチャー企業の場合、ストックオプションも重要な要素です。将来、Microsoftのような大きな会社になる可能性もあるので、株を多く持っていると、退職後のんびり暮らせるかもしれません。 

少しでも快適に働くために、簡単な交渉術として、以下のものをあげます。是が非でも要求を通したい人には、専門書を読むことを勧めます。 
・不必要な妥協・一方的な提案は避ける 
・感情的にならないように 
・公平性をアピールする 
・交換取引を探る 
・利息や長期休暇の可能性を探る 
・給与の範囲を提示しないように 
・最低ラインを保持した上で、いろんな可能性を探る 
・沈黙を使う 

"BATNA (Best Alternative To a Negotiated Agreement)"というのがあります。交渉学などの本でよく使われている用語で、「交渉が決裂した時の対処策として最も良い案」ということみたいです。"70-30 rule"というのもあります。ほかにもいろいろと交渉の技術はあるのでしょうが、交渉学については全く詳しくないので、詳細はググって下さい。 

長々と書いたがこれだけ言いたい→不満な環境で働いてはいけない! 


【大学での交渉】 

スタートアップの給与は、実験系の物理では、750万〜1250万円。 
ファンドについても決める必要があります。給付金、設備費用、夏休みの給与をどう割り振るか?学生とポスドクの割合をどうするか?資金を全て3年以内に使いきらなくてはいけないのか?前払いはできるのか?TAや中古品などの現物支給はどうするか?仕事環境の予算は含まれるのか?

交渉項目は以下の通り。全てを交渉する必要はないです。 
1.いつまでに決めなければいけないか 
2.いつから働き始めるか 
3.授業数を減らせれるか(1年目の助教には重要) 
4.実験設備 
5.駐車料金、引っ越し費用など 
6.夏休みの研究サポート 
7.夏休み期間内の指導の有無 
8.学会費用 
9.育児休暇やサバティカル 
10.テニュアの報告 
11.研究の指導 
12.スタッフの指導 
13.職場の場所や部屋の大きさ 
14.PCや机など仕事環境 
15.福利厚生(配偶者も含む) 
16.住宅ローンのサポート 
17.配偶者の雇用先の斡旋 


【練習】 

こんなときどうやって交渉を進めますか? 

例1 
XYZ社から内定をもらった。かなり良い仕事だが、あなたは大学でトップの成績を収めているので、高い給与と良い待遇がもらえることを期待している。最近の経済も上り調子。そんな中、会社側はあなたに1000万円の給料を提示していきた。これは許容範囲だが、もっと上げれるはず。 

例2 
素晴らしい成果を上げている大学で助教の内定をもらった。数年間、こんな仕事をもらえるのを願っていて、ようやくかなった。ボスや他の研究者、オンラインでの調査から、このような仕事では、一般的に770万円〜800万円の給与と7500万円〜8500万円の研究費があてがわれるようだ。 

例3 
上記を含めて、英語で交渉できるように、3〜4人で練習してみよう。 
A(就職活動者)、B(人事)、C(就職活動者のボス)とD(これら3人のレポート役)に分担。 
内定をとった状態から始める。給与は一般的なものと比較してやや低い場合を想定。 
Aは、できる限りの好条件にするが、Bと関係は悪化させないように。 
Bは、Aを雇用したいが、他の同僚などに納得させれる範囲で抑える。 
Cは、Aの相談に乗って一緒に戦略を練る。 
Dは、客観的な視点から、全員にフィードバックさせる。